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《コミュニケーション・コンパス特別対談》
企業サイトの集客、カギはコンテンツの品質だ
~商談を獲得できるオウンドメディア戦略の勘所~

代表取締役社長 デジタルマーケティング・コンサルタント 伊藤一徳×編集長 中沢真也

コロナ禍を機に、日本でもデジタルコミュニケーションが本格的な普及期を迎えた今、企業の主体的な情報発信の重要性が一層高まりつつある。こうした中、コミュニケーション・コンパスは2011年の創業以来、大手IT企業や製造業を中心に、数多くの企業サイトの構築を支援してきた。日経BP出身者など専門性が高い人材のネットワークを生かして信頼性の高いコンテンツを提供し、顧客の支持を集めてきた。これからの企業サイトのあるべき姿とは何か。それを実現に導くコミュニケーション・コンパスのビジョンとノウハウはどのようなものか。伊藤一徳社長と中沢真也編集長に話を聞いた。

企業サイトの現在地と課題

企業サイトがたどってきた歴史と現在の状況についてお聞かせください。

伊藤1990年代にインターネットが登場すると、企業の間でWebサイトを開設する動きが広がりました。当初は社長メッセージや会社紹介などのコンテンツが中心でしたが、2000年前半になると、ECの拡大に伴って自社の事業や製品・サービスの紹介、導入事例などのコンテンツが急増しました。
「うちの製品はいいですよ」と自社でアピールするより、顧客など第三者に評価してもらったほうが説得力が増すということで、導入事例や著名人を起用した製品紹介のコンテンツが増えてきたのです。

代表取締役社長 デジタルマーケティング・コンサルタント 伊藤一徳 代表取締役社長 デジタルマーケティング・コンサルタント 伊藤一徳

最近になって多くの企業から寄せられているのは、「生成AIやDX、SDGsのようにホットなキーワードを媒介として、これまで接点がなかった顧客とつながりたい」というご相談です。「自社製品を紹介するだけでなく、お客様の課題感に沿ったトレンド情報やお役立ち情報を盛り込み、それをきっかけとして自社に関心を持ってもらいたい」-そんな思いを持つ企業が増え、流れが変わってきたと考えています。

例えば、ある国内有数のICT企業さんは2004年に同社のコーポレートサイトとは別のドメインでオウンドメディアを立ち上げました。お客様に大規模システムやBCPへの投資を決断してもらうためには、情シス部門だけでなく経営者ともコンタクトをとる必要がある。そこで同社はオウンドメディアを立ち上げ、経営者の関心が高いトップインタビューや、歴史上の人物をテーマにしたコンテンツの掲載を始めました。このように、企業サイトは試行錯誤を繰り返しながら顧客志向でコンテンツを進化させ、一定の発展段階を経てオウンドメディアを持っていくというのがひとつの流れです。

それを示したのが下記の図で、私が提唱する「企業サイトのコンテンツ発展段階」です。

企業サイトのコンテンツ発展段階

オウンドメディアを立ち上げたもののPV(ページビュー)が伸び悩み、閉鎖に追い込まれる企業も少なくないですよね。今、オウンドメディアはどのような課題を抱えているのでしょうか。

伊藤オウンドメディアが失敗する要因としては、次の6つが挙げられます。

オウンドメディアの6つの失敗要因

1つ目は「企画力不足」です。社員だけで作ろうとすると企画力不足でネタが続かず、コンテンツを継続して掲載できない。これが最も多い失敗要因です。

2つ目は「プロジェクトメンバー間でゴールとKPIの共有ができていない」ことです。オウンドメディアを何年か続けていると、他部門などから「やる意味があるのか」と圧力がかかり、不況になると「こんなものはやめてしまえ」と横槍が入ることがあります。こうした圧力に負けないためには、「何のためにやっているのか」というゴールと、成功の判断基準であるKPI(資料請求数やPV数など)がプロジェクトメンバー間で共有されていなければなりません。

3つ目は、「ターゲットとなる層を集客できていないこと」です。例えば、PVを伸ばす目的でプレゼント企画を付けると、プレゼントの入手自体が目的化して、製品サービスの情報には目もくれずに離脱してしまうアクセスが増えてしまうことがあります。それを防ぐためには、「ターゲット層に刺さるコンテンツ」を企画し、アクセス状況を分析する必要があります。

4つ目は「サイト設計のミス」です。せっかく集客コンテンツを充実させてターゲットを呼び込んでも、製品・サービスの紹介が貧弱だったり、詳細情報のページへのリンクがなかったりすると離脱されてしまいます。こうした事態を防ぐには、「集客」「接客=製品・サービス情報提供」「送客=営業リード獲得」のフェーズに分け、“次につながる”サイト設計を行うことが重要です。

5つ目は「改善策を講じないこと」です。Webサイトの技術は日々進化し、競合他社のサイトもどんどんアップデートされていきます。遅れを取らないためには、PDCAレポートやアクセスレポートを見てKPIを把握し、コンテンツやサイト自体をタイミング良く改善していく必要があります。

6つ目は「予算」です。コンテンツ制作に費用をかけすぎると、投資対効果が低下します。その結果、サイトが閉鎖されるケースが多くなります。

商談を獲得できるコンテンツとは

オウンドメディアでターゲット企業を集客し、製品・サービスのページに誘導して次につなげる。それが企業サイトの成功の要件ということですね。では、どのようなコンテンツであれば商談に結び付きやすいのでしょうか。

伊藤「商談を獲得できるコンテンツ」にするためには、集客コンテンツと接客コンテンツの間に親和性を持たせることが重要です。仮に生成AIの記事で多くの人を集客できたとしても、その会社が生成AI関連の事業を手がけていなければ、ビジネスのプラスにはなりません。自社の事業と親和性のある集客コンテンツを提供し、かつ接客コンテンツとしっかり組み合わせることで、売り上げ拡大につながります。重要なのは「パーチェスファネル」を実現することです。

中沢パーチェスファネルとは、検索エンジンなどからの流入を増やして(集客)、コーポレートサイトの製品・サービス情報に導き(接客)、営業リードを獲得する(送客)という一連の流れを意味します(下図参照)。集客、接客、送客と進むにつれて、漏斗(ファネル)に注ぎ込んだ水の流れが細くなるように、徐々に人数は絞り込まれますが、最終的にはロイヤリティが高いお客様をつくり出すことができます。このプロセスを経ることで、オウンドメディアで集客した人たちを、「製品・サービスを買っていただく」お客様に仕立て上げることができるのです。

編集長 中沢真也 編集長 中沢真也 企業サイト設計の要

伊藤当社が作成した企業サイトのアクセスレポートでは、生成AIやDXなどのトレンドキーワードが含まれた記事は特に集客効果が高く、読了率も高いことが示されています。こうしたトレンドコンテンツで人を集め、自社がアピールしたいコア事業関連の記事に回遊してもらえる設計をするのも1つの方法です。PV数が稼げる記事とコア事業に関わる記事をどんな割合でブレンドするか。それがオウンドメディアの肝になってくると思います。

日経BP出身の元記者が読まれるストーリー作りをサポート

オウンドメディアでは、人気記事や魅力あるコンテンツで読者を惹きつけることも重要だということですね。

伊藤当社の強みの1つは、編集チームや社内外の執筆陣に日経BP出身者など豊富な記者経験を持つメンバーをネットワーク化していることです。彼らは記事制作のプロフェッショナルなので、「読まれるストーリー作り」のポイントを熟知しています。その核となるのが、当社が提唱する「マーケティングのマザーストーリー」という考え方です。

「マザーストーリー」とは、アメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベルの著書に出てくる言葉で、世界中の神話に普遍的に見られる物語の基本型のことです。キャンベルは世界中の神話を分析して共通のパターンを見つけました。若者が旅立ち、苦難を克服して求めるものを手に入れ、帰還するというもの。ブッダもキリストも英国のアーサー王の物語も、同じパターンを踏襲しています。映画監督のジョージ・ルーカスはキャンベルの講義を聴き、触発されて『スター・ウォーズ』を作ったといわれています。

我々が制作している事例コンテンツにも、基本型と呼べるようなものがあるんですね。それは、「課題があり、解決するためにツール導入を検討したが、社内の反対などで壁に突き当たる。しかし、その壁を乗り越えて導入に成功し、課題を解決して他社との競争を制することができた」といったものです。

実際には、集客コンテンツを「背景」「課題」「原因」「解決策」の4象限、接客コンテンツを「1つの解決策」「特長」「実績」「展望」の4象限に分け、合わせて8象限からなるストーリーを事例コンテンツの基本型として定義しました。これが、当社が独自に開発した「マーケティングのマザーストーリー」です。

コミュニケーション・コンパスが提唱するマーケティングのマザーストーリー

中沢要は、「こういう悩みってありますよね。それを解決するにはこんな方法もありますね」と話を切り出し、読者を引きつけてから、本題である製品・サービスの話につなげていくわけです。最初から「うちの製品やサービスはこんなにいいんですよ」とPRしても読者には響きません。まずは読者の悩みに共感することで、製品・サービスの良さを効果的に訴求できる。それは記者やライターなら体でわかっていることです。こうした“プロが培った暗黙知”を活用していただくためにテンプレートをご提供しているわけです。

日経BPで編集長や記者を経験した人がコンテンツ制作に関わることで、どのような違いをもたらすとお考えですか。

中沢日経BPのようなメディアで訓練を受けた人材がコンテンツの編集や取材・執筆に関わることで、日経BPの媒体と同水準の品質を担保できるのが最大のメリットです。また報道機関と同様にディレクターやデスクが二重、三重のチェックを行う体制を整えています。

伊藤我々がこだわっているのは、オリジナリティのあるビジネスコンテンツを作ることです。我々のお客様の多くがBtoB企業ということもあり、現場のエンジニアの方々にインタビューをする機会が多いのですが、エンジニアは寡黙な方が多いので、質問する側に専門知識がないと、なかなか口を開いていただけません。

しかも、ひと口に専門知識といっても分野は多岐にわたります。例えば、量子コンピュータや宇宙通信についての精緻な記事が書ける人材は限られますが、我々は専門媒体を経験した約60名の元日経BPの編集長、副編集長、記者をネットワーク化しているので、そういった取材にも対応することが可能です。実際、一般的なビジネス記事から専門的な記事まで書けるライターが揃っているということで指名されることも多いですね。

データ分析によるPDCAサイクル運営が要

単にコンテンツを制作するだけでなく、データ分析も社内で行っているそうですね。一般の制作プロダクションとは一線を画していると感じます。

伊藤社内にレポートチームとデータサイエンスチームを抱えていることも、我々の強みの1つです。この両チームが連携しながら、コンテンツ掲載後にデータを分析し、そこから得たインサイトを編集チームにフィードバックしています。つまり、「戦略立案・企画提案」から「コンテンツ制作」、「モニタリング」、「データ分析」までを一貫体制で行い、社内のコンサルタントや編集チーム、レポートチーム、データサイエンスチームが連携してPDCAを回しているわけです。「戦略的なオウンドメディアが丸ごと運用できる」ことが我々の最大の強みとなっています。

一貫体制が当社の強み

中沢データ分析結果を見れば、「その記事がなぜ受けたのか」「なぜ受けなかったのか」がわかるので、編集チームは「ここを改善しよう」「この読者層にもっとアピールしよう」と軌道修正を図ることができます。PDCAを回すことで、よりよい企画提案とコンテンツ制作が可能になります。

伊藤こうした体制のもと、当社では企業サイトのアクセス状況を分析したレポートを制作し、「どんな記事が読まれたか」を定期的にフィードバックしています。

また、大手メディアのタイアップ記事のレポート制作も受託しています。データを活用して、「今、どんな記事がクリックされているのか」「どんな見出しを付ければヒットするのか」「どんな広告が増えているのか」といった分析を行いながら、インサイトを社内で共有するための取り組みを進めています。

コミュニケーション・コンパスが掲げるビジョン

データ分析を重ねることでインサイトを蓄積しつつあるということですね。そうした知的資産をベースとして、どのような未来を目指して行くのでしょうか。貴社のビジョンをお聞かせください。

伊藤コミュニケーション・コンパスが目指しているのは、「デジタルコミュニケーションの羅針盤」になることです。デジタルコミュニケーションでは、相手の顔が見えない状態でコミュニケーションをとる必要があります。不特定多数の見えない相手と会話しなければならないので、言葉足らずや捉え方の違いから炎上してしまうことも珍しくありません。

不特定多数の見えない人が相手という意味では企業サイトも同様です。我々が「企業サイトの運営をサポートします」と宣言しているのは、デジタルコミュニケーションのノウハウをいかに進化させるかが、企業サイトDXの1丁目1番地だと考えているからです。

我々が羅針盤となって、デジタルコミュニケーションの大きな方向性を指し示し、データの持ち方や活用法までコンサルティングしながら、お客様を導いていきたい。「企業サイトDXの羅針盤」として、お客様に伴走しながら、より一層充実したサポートを提供していきたいと考えています。

本日はありがとうございました。

(聞き手:吉田耀子=フリーランスライター)

代表取締役社長 デジタルマーケティング・コンサルタント 伊藤一徳×編集長 中沢真也