NEC「business leaders square wisdom」


編集長インタビュー

~会社を主語にしないオウンドメディア~
wisdomらしさを貫くことで
社会価値の共創と事業貢献につなげる

NECが「business leaders square wisdom」(以下、wisdom)を立ち上げたのは、2004年。まだ、オウンドメディアという言葉が定着していなかった時代です。当初は、企業色を抑えた中立的な情報発信を行っていましたが、現在ではNECの事業領域と接点のある社会課題に向き合うビジネスメディアへと進化。企業ブランディングにとどまらない、実質的な事業貢献につながるコンテンツマーケティングを実践されています。企業や世の中に必要なメディアとして柔軟に変化し続ける姿勢、それを支える編集方針や運営哲学について、wisdom責任者の萬代由起子氏と運営ディレクターの松村達也氏にお話を伺いました。
聞き手︓コミュニケーション・コンパス編集長
 瀬川弘司

まずはwisdomの概要と、これまでの歩みについて教えてください。

萬代氏wisdomは今年で21年を迎える、NECのオウンドメディアです。2004年の立ち上げ当初は、運営者として企業名を表に出さず、コンテンツ面でもビジネスパーソンに役立つ中立的な情報発信に努めていました。NECと接点のない方々ともつながりをもちたい、という思いがあったからです。

その後、2013年頃にNECが「社会価値創造型企業」を標榜し、それに伴ってwisdomも大幅にリニューアルしました。テーマやコンテンツの選定方針として、NECの注力領域での取り組みや事例も、社会課題へのアプローチの一つとして積極的に取り上げるようになりました。

萬代由起子氏 NEC マーケティングストラテジー&オペレーションズ統括部 コミュニティエンゲージメントグループ ディレクター wisdom 責任者 萬代 由起子 氏

松村氏MA(マーケティングオートメーション)ツールにより、ターゲットマーケティングの最適化を図るようになったのも、その頃からです。2018年にはアノニマス(匿名)データの活用も始め、2024年に行ったサイトリニューアルではターゲットのインサイト発掘や興味関心データの取得・活用に取り組みました。こうして、誰でも読めるオープンなメディアでありながら、NECがアプローチしたいターゲットにきちんと届くメディアに進化させてきたのです。

萬代さんは、2018年にwisdom編集長に就任されています。どのような編集方針で運営されてきたのですか。

萬代氏wisdomはNECのビジネスに資するオウンドメディアであるべきだ、という意識を強くもって編集にあたってきました。

具体的には、wisdomの読者を「新規ビジネスを創り出す次世代ビジネスリーダー」と捉え、そうした読者の興味を惹く記事をサイトに掲載しています。ただし、掲載するのはNECの事業ドメインと関連づけられたもので、当社の先進性や取り組みへの関心が高まるよう制作したコンテンツです。つまり、wisdomとは、読者であるターゲット顧客とNECとのエンゲージメント強化を図るためのデジタルマーケティング基盤と言えます。

NECのオウンドメディア「business leaders square wisdom」 NECのオウンドメディア「business leaders square wisdom

施策の“答え合わせ”までを
見据えた仕掛けづくり

ターゲット顧客を意識したコンテンツの企画・制作は、どのように行っているのでしょう。流入施策までを含めて教えてください。

萬代氏NECの取り組みを紹介するコンテンツに関しては、各事業部門から上がってきた企画をwisdom事務局で確認、修正し、実際の記事制作は事業部門が外部パートナーさんと連携して行います。事務局は、コーディング作業と流入施策、インサイトを担当者にフィードバックするかたちです。

松村氏wisdom事務局と事業部門も連携して記事を作ることもあります。たとえば特集に掲載する記事を制作するとき、事業部門から「AIでの需給予測を活用したサービスを広めたい」という要望があった場合、事務局ではターゲットとなる顧客像を想定し、その方々に刺さる企画を一緒に考えます。ユーザー事例や有識者へのインタビュー、NECのスペシャリストなど、見せ方はさまざまです。

ただ、記事を制作して掲載するだけでは、本当に読んでほしい人に届きません。そこで、メルマガだけでなく、該当するターゲット層が多く集まる広告媒体を厳選し、リスティングやバナー広告などで流入を促します。記事閲覧ユーザーの一部は、TRENDEMONというツールで企業名がある程度可視化されるので、ターゲットとの合致度を測ることもできます。

そこで得られたデータを事業部門にフィードバックし、マーケティング活動などに活用してもらう流れとなっています。さらに、その方々が本当に狙ったターゲットかどうかの答え合わせをするために、大型ウェビナーやワークショップを年2~3回実施しています。参加には「My NEC」への会員登録が必要となるため、見込み顧客の実名化が可能となるわけです。

ウェビナーやワークショップなどのイベントも主催しているのですね。

萬代氏はい。イベントも記事と同じようにwisdomの重要なコンテンツと捉えているので、我々が責任をもって企画と実行を担っています。読者とのリレーション強化を図ったり、参加者の満足度を高めたりすることも、wisdomにできる事業貢献の一つだと考えています。

松村達也氏 NEC マーケティングストラテジー&オペレーションズ統括部 コミュニティエンゲージメントグループ 主任 wisdom 運営ディレクター 松村 達也 氏

NECではなく、社会課題を
起点に記事を展開

さまざまな種類のコンテンツが収録されていますが、サイトの大まかな構造をご紹介ください。

松村氏コンテンツは大きく2つに分けられます。1つは、先ほどお話しした事業部門制作の記事で、「テーマ」や「業種」というカテゴリーにまとめています。もう一方は、「特集」や「連載」に掲載される、NECを前面には出さないビジネス記事群。こちらの記事は、wisdom事務局が外部パートナーさんと協力して制作しています。

コンテンツの質を保つための決めごとや方針についてお聞かせいただけますか。

松村氏各事業部門の方々が記事をつくる際には、事前に「企画シート」の提出をお願いしています。制作予定コンテンツの概要や目的・ターゲット、記事を通じて応えたい読者ニーズや促したいアクションといった内容を記入してもらい、これをもとに事務局がコンテンツ化の判断をします。

判断の基準は、「社会課題を解決する切り口」であるかどうか。たとえばAI活用の記事でも、単に業務効率化で完結してしまう内容では、wisdomには掲載できません。その背景にある人手不足や高齢化といった課題に踏み込んでこそ、載せる意義のあるコンテンツになると思っています。

萬代氏そもそも業務効率だけを目的にしている企業はいないはずなんです。だからこそ、一歩引いた視点で、「なぜその取り組みが社会に必要なのか」を意識した記事にしてもらいたいとお伝えしています。そうではなく、NECの製品紹介をしたいんだという場合は、コーポレートサイトへの掲載を提案することもあります。

NECのサイトでありながら、それがwisdomらしさの担保につながるわけですね。運営にあたって大切にしていることは何でしょう。

萬代氏2つあります。1つは、NECを記事や企画の主語にしないこと。あくまで社会課題を起点として、読者に価値のある情報を届けることを第一に考えています。そのために、これまでも一貫してNECがターゲットとするお客様を軸に、企画、流入施策、検証まで含めて、読者ファーストでPDCAを回すことを重視してきました。

もう1つは、NEC社内におけるwisdomの価値づけです。wisdomには事業部門やテーマ担当者など、多くの人が関わっています。彼らにとっての活用価値を向上していくことも、事務局の大切なミッションです。これを実現すべく、企画シートの整備やガイドラインの文書化を進め、属人的でないガバナンスを効かせる体制を確立できたのも、この数年間のチームの成果だと思っています。

萬代由起子氏

wisdomらしさを支える
パートナーとの関係性

外部パートナーに対する考え方をお聞かせください。

萬代氏コンテンツ制作にあたっては、wisdomの方針を理解していただけるパートナーさんにお願いするようにしています。先ほどお話しした基本的な編集観点を共有できていないと、記事のトーンや品質が揺らいでしまうからです。

wisdomの立ち上げから携わってくださっているコミュニケーション・コンパスさんならその点も安心で、私たち事務局とも非常にいい関係性が築けていますし、記事を制作する事業部門にも安心してご紹介できます。

松村氏wisdomは他社のオウンドメディアとも、ニュースメディアとも違います。wisdomらしさを理解し、トレンドの一歩先まで見据えた提案をしてくださるパートナーさんは、本当にありがたい存在です。

弊社に対する評価やご意見などもいただけると幸いです。

萬代氏我々にはリーチできない有識者や執筆者とのパイプをつないでいただけるだけでなく、そこに編集としてちゃんと介在してくださるのが心強いですね。こちらの思いを正しく書き手に伝え、原稿もwisdomに適した表現に整えてくださるので、とても助かっています。もちろん、執筆者のテーマへの関わり方などには個性もあるでしょうが、適性や相性に応じてアサインしていただいている実感があります。

松村氏wisdomの世界観に合う編集者やライターの方と出会えると、嬉しくなりますね。上がった原稿を見ても、初稿の段階でコミュニケーション・コンパスさんの編集がしっかり入っていることが感じられ、頼もしく思っています。また、我々の修正指示に対しても、きちんと意図を汲み取ったうえでよりよい提案をしていただけるので、信頼は厚いです。

松村達也氏

目的をぶらさず、柔軟に
変化し続けてきた20年

最後に、オウンドメディアを健全に成長させるポイントについて、アドバイスをいただけますか。

萬代氏オウンドメディアを継続させるには、目的を明確にして、それをぶらさないことが一番大事だと思っています。社会や会社の状況は変わっていきますが、その都度、目的に立ち返って柔軟に方針を見直せば、必要な変化に対応できます。

wisdomも、2004年の立ち上げ当初のままだったら、もう存在していなかったかもしれません。現在でも運営できているのは、ターゲットとなる顧客やそのニーズの変化に合わせて、今求められるコンテンツは何かを考え抜き、伝えたい層に届け続けてきたからだと自負しています。その価値が会社にも認められ、こうして生き延びてこられたのでしょう。

松村氏長く続けられた理由は、NECを主語にしない姿勢にもあると思っています。NECの情報だけなら、コーポレートサイトだけでいいと思います。wisdomは、そこでは届けられない読者に向けて、社会や業界の流れも踏まえた価値ある情報を伝えるオウンドメディアです。「うちの取り組みをwisdomに載せたい」という声が増えているのも、社内で存在意義が認められた証しだと考えています。

萬代氏どんなにアクセス数が多くても、事業と結びつかなければ、企業のオウンドメディアとして存続するのは困難です。一方で、会社都合だけでつくったコンテンツでは、一部の人にしか届きません。その両方のバランスをとり続けることが、オウンドメディアを長く続ける秘訣といえるのではないでしょうか。

本日はありがとうございました。

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